手付(てつけ)
<手付>
売買契約に代表される有償契約において、契約締結の際に、当事者の一方から相手方に交付される金銭などのこと。交付目的により、解約手付、証約手付、違約手付に分かれるが、民法では原則として解約手付とされている。また、宅地建物取引業法では、売主が宅建業者の場合は、強行規定により、交付される手付は解約手付とみなしている。
<手付金等>
売買契約締結から物件の引渡しまでの間に、売主に対して支払われる金銭で、最終的には代金の一部に充当されるものをいう。通常取引における売買代金は手付金・内金・中間金・残金などに分けて支払われるが、残金は引渡しの際に支払われるのが通常であるので、それ以外の手付金・内金・中間金などが手付金等とされている。なお、宅地建物取引業法では、手付金等が一定の要件を満たした場合には保全措置をとるように定めている。
<証約手付>
売買契約などにおいて、契約成立を証する為に交付される手付のこと。
<解約手付>
契約成立後でも相手方が契約の履行(代金の支払や、登記手続きの準備)に着手するまでは、契約を解除することができるとする手付けのこと。
これは、契約の拘束力を弱めることもあるが、一方、相手方に契約解除されない為に、契約の履行に努力するという働きもある。
買主から契約を解除する場合は、売主に支払い済みの解約手付けを放棄し、売主から契約を解除する場合は、受領済みの解約手付けの倍額を買主に支払う。前者を手付流し、後者を手付倍返しという。
≪違約手付け≫(磯野)
契約当事者の一方に債務不履行(契約違反)が発生した場合の損害賠償の額を予定する為に授受される手付けのこと。
これは、契約の拘束力を強めることができる。
買主に債務不履行(契約違反)が発生した場合、売主は受領済みの違約手付を没収することができ、売主に債務不履行(契約違反)が発生した場合には、売主は受領済みの違約手付けを買主に返還し、さらに、それと同額を損害賠償として買主に支払わなければならない。
手付金の目的を明確に定めなかった場合は、「解約手付」となるので、違約手付として明確に定めておく必要がある。
なお、宅建業法では、宅建業者が自ら売主で手付けを授受したときはその手付けが違約手付とされていても、解約手付とされ、買主に不利な特約をしても、効力がない。
<手付金等の保全>
契約締結から物件の引渡しまでの間に、売主に対して支払われる金銭について、第三者に保管させるなどをして保全すること。
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手付金等の金額の要件
手付金等は一定金額に達した場合に、保全措置を講じる義務が発生する。金額要件は工事完了前の物件と工事完了後の物件で異なり次の通りである。
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工事完了前の宅地又は建物の売買の場合
手付金等の合計金額が、「代金の5%」又は「1,000万円」を超えるときは保全措置を講じる必要がある。
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工事完了後の宅地または建物の売買の場合
手付金等の合計金額が、「代金の10%」又は「1,000万円」を超えるときは保全措置を講じる必要がある。
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保全措置の内容
上記の金額要件に該当した場合に講じる必要のある保全措置は次の通りである。
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工事完了前の宅地または建物の売買の場合
保全措置としては、「指定保証機関(銀行等)による保証委託契約」と「保険会社による保証保険契約」の2種類があり、いずれか一つを講じればよい。
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工事完了後の宅地又は建物の売買の場合
保全措置としては、「指定保証機関(銀行等)による保証委託契約」、「保険会社による保証契約」、「指定保管機関による手付金等預託契約」の3種類があり、いずれか一つを講じればよい。
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保全措置が不要とされる場合
次の場合には、例外として保全措置を講じる必要はない。
- 上記1における金額要件に該当しない場合。
- 売主が宅地建物取引業者以外の場合。
- 売主・買主ともに宅地建物取引業者である業者間取引の場合。
- 売主・買主ともに宅地建物取引業者である業者間取引の場合。
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「工事完了」の意味について
上記1および2では、工事完了前と工事完了後で扱いが異なる。この「工事完了」の意味については、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方で次のように説明されている。
工事完了は「売買契約時において判断すべき」である。また工事の完了とは「単に外観上の工事のみならず内装等の工事が完了しており、居住が可能である状態を指すものとする」。
<手付けの額の制限>
売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者以外の場合に適用されるもので、売主が受領する手付は代金の2割を超えてはならないという制限のこと。この制限は強行規定であり、これに反する買主に不利となる特約は無効となる。